むかしむかし。町に住むある人が秋山から嫁をもらった。昔から体格美人というから、大きくて体のがっしりとした嫁をもらったそうな。
ことのほかこの嫁がよく稼ぐし、気だても優しいし、家の人たちも喜んでいた。 嫁を春にもらったが、秋になったらことのほか痩せてしまった。おじいさんも夫も仕事に出てしまって、おばあさんと嫁の二人になった。 おばあさんが言ったそうな『嫁さんや、お前さんは何か心配事でもあるんじゃないかい?今年の春にこの家に嫁にきたときはとても体格がよかったけれど、 日に日にどんどん痩せているようだが、おじいさんも仕事に出て留守だから、何か言いたいことがあったら何でも言ってみなされ』 『おばあさん、私はあんまり我慢して痩せてしまいました』 『それはどういうわけだい。もっとちゃんと言ってみておくれ』 『私はもう、おならが出たくて出たくて、どうしようもないのですが、両親が嫁に行ったら無作法なことはするんじゃないと言われたもので、 とても我慢をしてきて、それで痩せました。私は、仕事はどんなことをしても苦になりませんが、おならを我慢しているのが何より辛いのです』 『なんだ、そんなことか。そんなに無理して我慢していると体に毒だから、思い切りしなされ』 『そう言われると、もう我慢ができません。人前では悪いので、向こうへいってしてきます』 『そんな気を使わなくても、ここでしなされ』 『では、ここでしていいですか。申し訳ありませんが、少しの間、囲炉裏のふちにしっかりとつかまっていてください。いいですか』 と言って「ズボーン」と、ことのほかものすごいおならをした。 おばあさんは囲炉裏につかまっていたら、火棚のところまで吹き飛ばされてストーンと落ちた。 と思ったらまた「ズボーン」と、前と同じような大きなおならをした。おばあさんはまた吹き飛ばされた。 ちょうどその時、こうじ屋が家の中へ入ったところだった。大きなおならをしたら、こうじ屋はこうじ箱を落として、前のほうの畑に押しやられた。 そうしてやっと大根につかまった。かと思ったらこんどは家のほうまで引き寄せられた。 「ズボーン」とおならをしたら、また、前のほうの畑に押しやられ、大根につかまった。とたんにまた、家のほうまで引き寄せられた。 大根が家の外にやまほど積み上げられたそうな。家のなかではおばあさんが火棚に吹きあげられたり、落とされたりしているそうな。 とうとうおばあさんが、『嫁さん、嫁さん、いいかげんにやめてくれ』とやっとの声で言ったそうな。 嫁はこれくらいでいいと思っておならをするのをやめたそうな。そしてやっと騒ぎがおさまった。こうじ屋は、こうじ箱を置きっぱなしにして、 これはたまらんと行ってしまった。 おばあさんは囲炉裏のふちでぐったりとしていた。嫁はやっと元気のいい顔になってすわっていたそうな。 めでたしめでたし。 |