むかしむかし、秋山にことのほか器量のいい娘がいたそうな。ある村にその娘が嫁にもらわれていくことになった。
娘のおじいさんは、『よその村の人たちは賢い人ばかりだというから、娘が向こうへいって恥をかいてはいけない、よそ村の言葉を習いに行ってこよう』と、 おじいさんはおにぎりを作ってもらって言葉を習いにいったそうな。 おじいさんは、行くところ行くところ、何か賢いことはないかと目をキョロキョロさせながら歩いた。 すると、巡礼の子が村の中で小便をしていた。 おじいさんは、『こらこら、おまえがは何をしている』と聞くと、巡礼の子はきまり悪い様子で『おらは西国巡礼しているんだ』といった。 『ああ、そうかい、そうかい』おじいさんは、これはいいことを聞いた。この辺では小便することを西国巡礼というんだな、よしよし。と、 矢立を出して、忘れてはいけないと思って紙に書いておいた。 また少し向こうまで歩いたら、道ばたで大便をしているひとがいたそうな。『お前さんは何だね。何をしてなさる?』とおじいさんが聞いた。 そのひとはきまり悪い様子で『おれは今、日本廻国だ』と言ったそうな。おじいさんは、『ははーん、このあたりでは大便することを日本廻国と言うんじゃな』 と、さっそく紙に書きとめた。そうして、おじいさんは、これだけいいことを覚えればもうたくさんだ。もどって娘に聞かせてやらねばならねえと、家に戻ってきた。 『これこれ娘、向こうへ行ったらいい子になって、間違いごとを起こさねえようにしなければなんねえ。よその村では、小便することを西国巡礼というし、 大便することを日本廻国というんだ。お前ももし、夜になって小便や大便がしたくなったらそう言って便所へ行かせてもらえ』 と言い聞かせた。 娘が嫁にいって初めての夜になった。嫁はさっきから我慢していた小便をしたくなった。 『お前さん、お前さん、申し訳ないのですが、西国巡礼にいかせてください』と下を向いて言った。 『ばかなことを言うんじゃねえ、せっかくお前のような器量のいい嫁をもらったというのに、西国巡礼になどやるものか、西国巡礼にはいかせねえ』 嫁は我慢していたそうな。 『お前さん、お前さん、西国巡礼どころじゃありません。こんどは日本廻国へ、日本廻国にいかせてください』と言った。 『いいや、おれはいくらお前が頼んでも西国巡礼も日本廻国にも、どうしてもいかせられねえ』 嫁はとうとう我慢しきれずに布団の中で小便と大便をもらしてしまった。 『お前さんが西国巡礼と日本廻国にいかせてくれないものだから、いちどにしてしまったじゃありませんか』 おしまい。 |